星座とシネマ

心から正しいと思うことを選ぶ
天秤座×「スノーデン」

2021.09.24

今月の星座の気分を目覚めさせる一本の映画を肴に、あなたの魂を養うメッセージをお届けする星占い×映画レビュー。
今回取り上げる映画は、2013年に世界を揺るがした
あの大告発の背景を描いた「スノーデン」。
情報化社会に生きるわたしたちに、真の自由と正義について考えさせてくれる一作。


written by Naoko Okazaki

正しさとはなんだろう?
正しい目的のためであれば、手段は正当化されうるか?
どこまで? どこまでも?

シンプルな話だ。
人間は社会的な動物だから、本能的に集団の中で優位に立ちたがる。その集団の中で高く評価される力や魅力を持ったら効果をアピールしたくなる。勝てそうな相手には強気になるし、負けそうな相手には慎重になる。

ヘンなやつとは関わりたくない。集団から逸脱しすぎることは危険だからだ。
言ってしまえばそれは善悪以前の生存本能で、本能だからこそ強烈に人間の意識を支配する。食欲や、性欲と同じ、生存欲求。

生存欲求は悪ではない。だけどその本能のみにまかせて生きていては、社会は野生と変わらない熾烈な弱肉強食の世界になってしまう。
ゆえにわたしたちは、正義という理性をここに持ち込む。
いかに自分の生存がかかっていようとも、その過程で意図的に他人を陥れるような行動は抑えるべきだ。

この約束事こそ人間を人間たらしめているものであり、野生動物とのほぼ唯一の違いだ。
しかし、ここで疑問が生じる。
わたしたちが生きている現代社会は、ほんとうに野生本能が支配する生存競争のカオスから解放されているんだろうか。

正義はわたしたちの精神を本能の支配から解放するという本来の役割ではなく、むしろそれを大義名分にして他者の優位に立つための道具に……本能の手下にされてしまっているのではないだろうか。

2021年9月23日から10月23日まで、天秤座のシーズン。
天秤座は12星座の後半の幕開け、秋分の日からスタートする星座だ。

天秤座のシーズンは、天秤座生まれの人だけでなくすべての人にとって、社会との付き合い方を意識する時期だ。

人間は誰しも社会的文脈の中で生きている。
たとえば、ワクチンを急いで打つべきか、様子を見るべきか。SNSをやるべきか、やらないべきか。オーガニックの野菜を買うべきか、ふつうの野菜を買うべきか。そうした日々のパーソナルな決断の数々を通じて、わたしたちは社会と交流している。

なにを選んでもそれなりに利と損がある。どんな利を求めて、どんな損を引き受けるか。わたしたちは小さな選択を繰り返しながら、自分の中の判断基準、軸となるものを育んでいる。
意識していようが、いなかろうが。

2013年6月、イギリスの「ガーディアン」紙の衝撃的な報道が全世界を駆け巡った。
アメリカ国家安全保障局(NSA)で契約局員として働き、かつては中央情報局(CIA)局員でもあったエドワード・ジョセフ・スノーデンが、アメリカ政府が全世界規模で行っている諜報活動について恐るべき内部告発をしたのだ。

パソコンのカメラをシールやふせんでカバーしている人をときおり見かけるが、あれは被害妄想ではなく、実際にアメリカ政府は(おそらく諜報機関を持つ他の国も同様に)インターネットを通じて、電源の落ちているパソコンのカメラやマイクを起動させることができる。

非公開のチャットやメール、銀行口座の利用明細や、プライベートな電話の内容、すべてのデータは監視され、裁判所の許可などの手続きなしに、いとも簡単にCIA局員によって検索される。

それまでSFや陰謀論の域を出なかった、情報化社会の行き着く先、監視社会がもうすでに完成していることを、当時29歳の青年が命がけで告発した。

このことによって、スノーデンは情報漏えいをはじめとした罪に問われ、アメリカ政府から指名手配を受けることになった。

©2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

2016年公開の映画「スノーデン」は、社会派で知られるオリバー・ストーン監督が亡命先のモスクワに暮らすスノーデン本人を取材しながら制作した作品。
彼がどんな経緯で世紀の告発に至ったのか、そのバックストーリーを丁寧に描いた良作だ。

恋人、家族と友人、立派な仕事と高給、慣れ親しんだ故郷を捨て、犯罪者と呼ばれてでも、彼が訴えたかったこととはなんなのか。
スノーデンがもたらした機密情報以上に、彼の精神性そのものが、今月の星座である天秤座のテーマをよく表しているように思う。
ひと言で言って、それは「正義」とはなにかというテーマだ。

エドワード・ジョセフ・スノーデンは、特殊部隊を目指して軍隊に志願するくらいに、愛国心の強い青年だった。

アメリカという国の理念とも言える自由と独立の精神は、独立宣言の文書に書かれている「革命権」によく象徴されている。
自国民に対して、政府が権力を不当に濫用した場合には、人民には政府を革命する権利があると宣言するものだ。

日本人には馴染みのない考え方だが、この徹底的に個の自立性を重視するアメリカ的精神が、マスク着用を強要されることへの大反発や、銃という武器を軍や警察などの権力機構だけに専有させないという発想にもつながってくる。

©2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

映画の序盤、軍隊を怪我で除隊したあと、CIAの面接を受けているスノーデンは、こうしたアメリカという国の理念を素直に信奉しているように見える。

テロの驚異から国を守るために、戦争を未然に防ぐために、民衆を抑圧から開放するために、という大義のもとでスノーデンは仕事をこなしていくが、その過程で徐々に、アメリカ政府の諜報活動に疑問を抱くようになっていく。

詳細は映画を確認してもらいたいが、なんら政治に関係のない一般人に対する諜報活動や、同盟国である日本をターゲットにしたスパイウェアの構築も、彼の仕事として登場する。

正しい目的のためであれば、手段は正当化されるのか?
いやそもそも、「目的」は、ほんとうはなんなのか?
それは覇権争いという、社会動物の本能のゲームに過ぎないのではないか?

2021年現在、コロナ禍の社会においてわたしたちの生活はますますインターネット抜きには成立しなくなっている。だから、アメリカや中国が全世界の人々を監視していると言われても、「別に見られたってかまわない」というのが、典型的なわたしたちのリアクションだ。(作中、スノーデンの恋人リンゼイがまさにそう言う)

しかし、「つねに誰かに監視されるということ」のもつ、ごくリアルな問題は、ここ数年の間にわかりやすく浮上してきてもいる。

たとえば過去の言動を執拗に追求されて手酷いバッシングや不買運動などのターゲットにされるキャンセルカルチャーの問題。
人間は誰しも成長あるいは変化していくものだけど、過去の発言のすべてに責任を持てと言うことは果たしてほんとうに現実性があるだろうか。

生活のあらゆる側面がオンラインに足跡を残すようになった今、過去はいつまでも風化せず、水にも流されず、消えていかない。それまで成功していた誰かが転んだり、ボロを見せたりすれば、過去は掘り返され、言動がやり玉に挙げられ、執拗に攻撃される。これはもう芸能人や政治家だけの問題ではない。

そうやって誰かが叩きのめされている姿を日常的に目にしているわたしたちの心に、「あんな目にはあいたくない」という恐怖が育っていないと言えるだろうか。自由な発想やチャレンジ精神が萎縮していないなんて言えるだろうか。

監視社会の問題は、実はスパイ映画のような遠い話ではない。
それは、精神の自由に対する侵害の問題だ。
ネット上に公開されている情報だけをとっても問題が起こるのに、すべての非公開の個人情報にまで政府機関がアクセスできるということが、いったいどれほどの権力を意味しているのか。

さて、ではわたしたちはどうすればいいだろう?
ネットをやめられない以上、権力者たちがなにをしていようと、本質的にその「監視」を止める手立てはない。

©2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

スノーデンのもたらした情報は、この問題についてひとりひとりの個人が考え、必要ならば公の場で議論もできる機会をひらいた。
もちろんそうした議論や、新しいルールづくりも大切だ。でも結局の所、個人の意識の変化こそが、この問題を解決する本質であるように思う。

誰も完璧ではないということ、人は変化していくものだということ、その当たり前の事実を知っておくこと。
自分自身を含めて人間は、悲しいくらい本能に弱いということを、わかっておくこと。

ほんとうの意味で「別に見られたってかまわない」ようになるためには、社会の多数派が「勝ちたい」「生き残りたい」「覇権を取りたい」といった本能に振り回されない、理性を獲得している必要がある。

その一歩目は、結局自分の行動からだ。
だからスノーデンの決意と行動には人間精神にとっての重大な意味がある。

キャリアや恋人や潤沢な給料をあえて捨てたいと思う人はいない。ほんの少し、心の片隅でささやく良心の呵責に目を瞑れば、今のままの生活を続けていられる。自分が愛している、今のままの生活を。

©2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

しかしスノーデンは、自国の政府の行いに正義がないと認識してしまった。
映画の終盤、NSAのハワイ支局からヒヤヒヤするやりとりを経て告発の証拠となるデータを盗み出したスノーデンが、建物の外に歩き去るシーンが印象的だ。
作中、苦悩に満ちた表情ばかり見せていたスノーデンがはじめて、ほんとうに心からの晴れやかな笑顔を見せるのだ。

最悪の事態もすべて、覚悟した上での賭けだったはずだ。
コピーデータをNSAの外に持ち出したこの瞬間、スノーデンは完全にこれまでの生き方と決別したのだ。もう後戻りも、言い訳もきかない。
今後ここに連れ戻されることがあれば、それは反逆者としてであって、職員としてではない。
その事実を無上の安堵であるかのように、彼は笑った。

奇妙に聞こえるかも知れないが、わたしたちは自分の良心にしたがったときにはじめて自由意志を獲得する。

イージーな快楽の誘惑にも、スケープゴートにされるかもしれない恐怖にも支配されない、ほんとうにただ自発的な、にごりのない自分の思考と感情にそこではじめてわたしたちは出会うのだ。

©2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

エドワード・スノーデンは、最初から自由の精神の信奉者だった。
それを守るために軍隊に志願し、CIAにも志願した。認識が拡大するとともに、選択する行動が変わっただけだ。
彼は自分が心から信じている自由を守るために、恐怖を乗り越えて、すべきことをした。彼自身が心から、正しいと思えることを。

議論を始めるための情報が開示され、それを元に政府に疑問を呈し、説明を求める権利が人民に与えられていること。
それこそまさに、アメリカ独立宣言に謳われている理念そのものだ。
スノーデンは祖国を追われることになったが、真のアメリカ精神の体現者になった。

映画のラストには、モスクワに暮らすスノーデン本人が役者に変わって登場する。そしてこう結ぶ。
「ハワイを出てすべてを失いました。恋人と家族がいて、将来がありました。その人生を失ったけど、新しい人生を得ました。
ぼくは幸運です。明日を心配せずにすむ自由を得たんです。心の声に従ったから」

今月の名作

『スノーデン』
世界を震撼させた衝撃の実話を、オリバー・ストーン監督により映画化した話題作。
ブルーレイ&DVD発売中、NETFLIX、U-NEXTなどで配信中。
発売元:ショウゲート
販売元:ポニーキャニオン
©2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.


岡崎直子/元・大手出版社社員。社員編集者からフリーライター期間を通して雑誌・新聞・書籍等で主にファッション系記事を執筆。
同時に占い師として複数の雑誌で連載を経験。
現在はYouTube、note等での情報発信およびオンラインでの占星学クラス等を開催。
https://www.youtube.com/channel/UCkBYHQILkcdeel-0KD7jbAQ
https://note.com/naokookazaki

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