星座とシネマ

人生を分かち合う、幸せと痛み
蟹座×「海街diary」

2021.06.21

今月の星座の気分を目覚めさせる一本の映画を肴に、あなたの魂を養うメッセージをお届けする星占い×映画レビュー。
今回取り上げる映画は「海街diary」。
鎌倉の町の風景の中でだれかと“家族”になっていく、あたたかかくて繊細な一年の記録。

星占いの12の星座のことを、英語で「ゾディアック(Zodiac)」と言います。
この言葉の語源はギリシャ語の「ゾーエー(Zoe)」という単語。
動物園のことをZooと言いますが、それも同じ語源です。

ゾーエーとは生命という意味ですが、そこに含まれる感覚は普段わたしたちが考えている「生命」とは少しニュアンスが違っています。
「生きている」というと、ふつうは生まれてから死ぬまでの間の状態のことを指しますが、ゾーエーとしての生命は実「死」も含めた上での「全体性の生命」といったニュアンスなのです。

生き物が生きるためには、他の生き物の命を貰う必要があります。たとえあなたがヴィーガンでも、食卓に並ぶ穀物や野菜といった生命を摂取することなしにわたしたちは生命活動を維持することはできません。
そうしていつかわたしが死んだ後も、その生命は土に還り、またあらたな生命を育む……といった、生と死の繰り返しの全体のことを、古代ギリシャ人はゾーエーと呼んだのです。

命はそうやって、連なって存在していて、決して単独ではありえません。
つまり、個体としての生命は滅びゆくけれど、すべての生命の生と死を変遷していく全体像としての生命・ゾーエーは、変化はしても不滅だと考えたわけです。

死がなければ生はなく、生がなければ死もない。
命の繰り返しの中で、どちらも等しく大切なものだ、という古代的な思想は、こうした「永遠不滅のもの」から見た世界観なのです。
「生と死」を、別の言葉に置き換えるなら、やってくるものと去っていくもの、そう言い換えてもいいでしょう。

新しいものが人生の中に入ってくるとき、古いなにかが押し出されていきます。
変化には、痛みや別れがつきもので、それらの犠牲によって新しくやってくるもののためのスペース、居場所が確保される。
なにかが失われていくときというのは、気が付いていなくても新しいなにかが生まれているときでもある。

2021年6月22日から7月21日。蟹座のシーズン。
蟹座は「HOME」というキーワードを持つ星座。家族、共同体、故郷、仲間たち。
そうした、人と人とのつながりが生み出す「居場所」が蟹座のテーマ。

この時期は、蟹座生まれの人だけでなく、すべての人にとって、自分の「HOME」とはなにかを問い直すのにぴったりの季節です。
HOME、それはひとつの舞台のようなもので、登場人物が入れ替わりながらも、似たような劇を繰り返し上演し、歴史を紡ぎ、価値観を生み出しながらいつの時代も人々の「居場所」として機能する。

蟹座の「HOME」というテーマを語るにふさわしい今月の映画は、2015年公開の日本映画「海街diary」。
家族をテーマにした作品を数多く制作し、国内外で高い評価を受ける是枝裕和監督が、吉田秋生の同名の漫画を映画化したものです。

舞台は海辺の街・鎌倉の古い一軒家。
そこに暮らすのは、看護師の長女・幸(綾瀬はるか)、銀行勤めの次女・佳乃(長澤まさみ)、スポーツショップ店員の三女・千佳(夏帆)の、香田家三姉妹。
姉妹の父母は15年も前に離婚し、それぞれ鎌倉を出ていて、現在香田の家に暮らすのは三姉妹だけだ。

気楽な独身女三人暮らしに変化を起こすことになったのは、音信不通のまま疎遠になった父が遠く山形の地で亡くなった、という葬儀の報せだった。
かつて不倫の末、家族を置いて出ていった父のことを、「昨日のことのように」ハッキリ記憶している長女・幸は、父のことも、その父に捨てられたショックから鎌倉を出て北海道に移り住んでしまった母のことも、「大人になりきれない弱い大人たち」として、まだ心の底からは赦すことができない。
親がいなくなり、祖母と一緒に幼い妹たちを守ってきたのは幸であり、その祖母亡き後は香田家の女主人として妹たちの「HOME」を守るために気を張ってきた。

次女の佳乃は、両親のこと以上に「家」の犠牲になろうとしているかのような姉のことが気がかりだ。責任を背負い込まず、もっと自分の幸せを考えて欲しいと思っている。

三女の千佳は、幼い頃の出来事をよく覚えていない。物心ついてから会ったことのない父は、ただぼんやりと「優しい人だった」というイメージでしかない。

因果なもので、家族という親しい関係は、プラスの影響もマイナスの影響もはっきりとお互いの性格や好みに反映する。

幸は、子供の頃に、本当は両親にこうあってほしかった「しっかり責任をとり、子供たちを守る大人」であろうとする。
佳乃は、姉にそうあって欲しいと願うように、家に縛られずに、自分の居場所を外に見つけようとする。恋愛にのめり込むが、いつも相手に尽くしすぎてしまう。
千佳は、姉二人と違って父母に対するわだかまりが薄い。自由だけど、その分繊細だ。欠落している思い出を探し求めるように、ふわふわと夢見がちな雰囲気がある。

性格の違う三姉妹は、ついに再会することのなかった父の葬儀に出席するために山形の温泉地まで出向くのだが、
そこで父が再婚したあとにできた子供、つまり腹違いの妹である浅野すず(広瀬すず)にはじめて出会うことになる。
香田家から父を「奪った」女性との間の子供。だがその「女性」もすでに病死していて、すずは中学生にして天涯孤独の身になってしまった。

当時中学を卒業したばかりだった広瀬すずの演技は、映画公開当初も大きな話題になっていたが、訴えかえるような大きな瞳に、言葉にも態度にも必死に出さないように耐えている寂しさと心細さが満ち満ちていて、登場しただけで胸が締め付けられるような存在感がある。

避け得ない事情があったのだとしても、親に置いていかれたという事実がそれだけでどんなに深い傷を子供に残すのか。
それを身をもって知っている香田家の三姉妹、特に長女の幸は、思わず、しかしはっきり決意を持って声をかける。
「すずちゃん、鎌倉に来ない? 一緒に暮らさない?四人で」

かくして、古いけど広い、鎌倉の日本家屋で「女子寮」みたいな四人の生活がはじまった。
父親の死が運んできた、不思議な縁。
すずという新しい風が吹き込んできたことで、香田家に長年わだかまっていた様々な記憶が、埃が舞い上がるように蘇って、そして解放されてゆく。

大人も子供も、誰一人完璧ではない人々が織りなしてきた、痛みの記憶と、愛の記憶。
許せないのはひどく愛していたからで、もうここにいないことがさみしくてしかたないからだ。
そのことを諦めきれないかぎり、人は「愛していた人にしてほしかったこと」を絶対の正義や信仰のようにして、自分自身を縛ってしまうのだろう。幸が必死で、父や母がないがしろにしてきた香田の家の伝統を守ろうとするように。
許したくないのは、あきらめきれないからだ。

しかし、そうやって自分を縛ってしまうことすら、単純に悪いこととは言えない。
なにが悪いことで、なにが正しいことなのかをはっきり決めきれないのは、すべては繋がっているから。
姉妹がすずという妹を愛するようになればなるほど、自分たちを置いて出ていった父親の行動を許さざるを得なくなっていく。
なぜなら、父の人生の果てに生まれてきたのが、かわいいすずだからだ。

幸の意地も(佳乃には過度に自己犠牲的に写り、実際図星な面もあるにせよ)、孤独に落ちかけていたすずという少女を温かく包み、再生させていくHOMEとして結実している。

庭に生る梅から作る家族の梅酒。お下がりの浴衣を着付けてもらうくすぐったさ。柱の背くらべにすずの名前が加わったこと。
そうしたひとつひとつのシーンが優しくて、さりげなくて、幸せだ。
自分の運命を覚悟したような、捨てられた子犬のようだったすずの瞳が、だんだん生き生きと輝いて、明るさを取り戻していくその過程が、幸を、佳乃を、千佳を幸せにする。

誰かを愛すると、オセロをひっくり返すように世界の意味が塗り替えられることがある。
その人を存在させ、幸せにしているありとあらゆるものをも、好きになってしまうからだ。どうしても受け入れられなかった、許せなかったものですら。

映画は三姉妹とすずが、時間をかけてゆっくりと「四姉妹」になっていくまでの過程をとても丁寧に、繊細に映し出す。

さて、見ず知らずの他人同士は、一体どうやって仲良くなって、友だちや仲間になり、果ては家族になるのだろうか。

軽い知り合い程度の関係から、親友や家族と呼べるような関係に深まっていくには、実は「可哀想」に思う気持ちや「申し訳ない」という感情が深く関係しているように思う。
一見、ネガティブにも思える感情で、とくに「可哀想」というのは、そう思うことすら失礼だという考え方もあると思う。

確かに、大して仲良くもない人から同情の目を向けられるのは、見下されているようでもあるし、あるいはベタついたお節介にも思えて不快なものだ。
そういう共通認識もあるから、誰かに憐れみの気持ちを感じたとしても、それを表に出さないように気をつける。

しかしそれでも、恋愛でも友情でも家族愛でも、お互いが本当に大切な存在になっていくそのきっかけには「可哀想」と「申し訳ない」があると思うのだ。

あの葬儀の日、自分の運命に何の抵抗もできない子供のすずが、それでも気丈に振る舞っているのは胸が痛い光景だった。
幸はそのとき、「父」という同じ人物を愛し、そして置いていかれた、自分よりもっと可哀想な子を初めて発見したのかもしれない。

幸には佳乃と千佳がいたけれど、すずは本当にひとりきりだ。
だから、両親の離婚になすすべもなかった子供の頃の自分が、本当はだれかに差し伸べてほしかったやさしい手を、自分が得られなかったそれを、幸はすずにあげることにしたのだ。ひとりで痛みに耐えているすずが、あまりに可哀想だったから。

そのひとをひとりにしておきたくないと思ったとき、わたしたちは自分の人生の一部を明け渡す。
心のなかにその人専用の場所をつくって、いつでも、好きなだけそこにいていいようにする。
そして居場所をプレゼントされた側は、温かなホームが本当に、いつもそこに用意されていることに、深い安堵と、そして申し訳なさを感じるのだ。
それはまさに、その人のとても大切な人生そのものを分けてもらうことだから。

命が命によって賄われるように、愛情はそうやって人生を捧げ、捧げられることによって育まれていく。
誰かに自分をあげることも、もらうことも、生と死のように切り離せない、愛の形だ。

映画のクライマックスに、すずがずっと言えずにいた自分の思いを幸に告白する、ハッとさせられるようなシーンがある。

誰かを幸せにしたいという気持ちは、どんなに本気でも、美しくても、たしかにそれが誰かを救っていても、それでもどうしても利己的だ。
幸が、自分自身のかつての姿を知らずにすずに投影して、自分がされて嬉しいことを精一杯してあげていたように。
その日々の中で無意識に、すずが恋しくてたまらないその人を、香田家とすずにとっての加害者、悪人として扱っていたことに、幸は気付かされる。

誰も完璧ではなくて、愛情すら完璧ではなくて、わたしたちはいつだって利己的に、良かれと思って人を傷つける。
気を遣っているつもりで自分の苦しさばかりに気を取られて、思い至って当然のはずの大事な人の痛みを見逃す。
いつも、やってしまった後でそれに気づいて、申し訳なくて、誰かを許せなかった自分が、別の誰かに許してもらいたくてたまらなくなる。

それでも分け合ったささいな日常の積み重ねは、よいことも苦いことも含めて、人と人を結びつけ、知らぬ間にそこにお互いの居場所を創り出す。

生と死。やってくるものと去っていくもの。許せることと許せないこと。
すべてを包み込んで、鎌倉の海の潮騒が響いている。

今月の名作

海街diary
2015年公開。脚本・監督は是枝裕和、原作は吉田秋生のベストセラーコミック。
第68回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、第39回日本アカデミー賞では最優秀作品賞や最優秀監督賞など4冠に輝く。
DVD/ブルーレイほか、AMAZON PRIME Videoなどで配信中。

岡崎直子/元・大手出版社社員。社員編集者からフリーライター期間を通して雑誌・新聞・書籍等で主にファッション系記事を執筆。
同時に占い師として複数の雑誌で連載を経験。
現在はYouTube、note等での情報発信およびオンラインでの占星学クラス等を開催。
https://www.youtube.com/channel/UCkBYHQILkcdeel-0KD7jbAQ
https://note.com/naokookazaki

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