星座とシネマ

心が形になるために必要なこと
山羊座×「プラダを着た悪魔」

2021.01.05

今月の星座の気分を目覚めさせる一本の映画を肴に、あなたの魂を養うメッセージをお届けする星占い×映画レビュー。
今回の作品は華やかなでおしゃれなシンデレラ・ストーリーがメイン……と思いきや、実は仕事においてのあり方を深く考察できる「プラダを着た悪魔」です。

written by Naoko Okazaki

「プラダを着た悪魔」が公開された当初この映画を普通にガールズ・ムービーだと思っていた私は、ある男友達が「すごく面白かった」と評したことに衝撃を受けた。

アン・ハサウェイやエミリー・ブラントが次々着こなすハイブランドの服や小物、業界の有名フォトグラファーの名前がさらっと登場するオタク心をくすぐる演出、「美しさ」に命をかける超華やかで超クレイジーなファッション編集部あるある(当時私はファッション誌で働いていた)に、
笑いながらもときめいていたので「SATCは大嫌いだったのになぜ?(あれもファッションムービーなのに)」と思ったわけだ。彼の返事はさらに衝撃的だった。「少年漫画みたいだから」

大学を出たばかりで、自分の才能にも信念にも自信がある主人公がひょんなことから飛び込んだ腰掛けのつもりの会社で、モンスター級に強烈な業界トップの実力者に出会う。反発し、若いプライドをへし折られ、何度も挫けそうになりながらも奮起し、仲間に助けられ、やがて少しずつルールを学び、実力をつけ、認められ、そして巣立っていく。

アンディ(アン・ハサウェイ)とミランダ(メリル・ストリープ)が6thアヴェニューのビル街で最後にほんの数秒視線を交わすシーンなんて、かつての師弟……年齢にも地位にも実力にも天地ほどの開きがありつつも信念をぶつけあった“ライバル”同士……が一瞬だけ昔を懐かしむ的な、なるほど確かに漫画に出てきてもいいようなシーンだ。

そう、この映画はファッションの映画である以上に、本気で夢を仕事にしようと野望を抱いたことがあるなら誰もが共感できる「お仕事映画」なのだ。

12月22日〜1月19日、山羊座の季節。山羊座生まれの人だけではなくすべての人にとって山羊座的な精神が刺激されるシーズン。

社会に出て仕事をする、という大人のルールのすべてがこの星座には詰まっていて、それだけに厳しく冷酷だと(まるで「悪魔」ミランダ・プリーストリーのように)言われることも多い星座。
しかし同時に山羊座シーズンは仕事をする意義や情熱をもう一度自分で確かめる素晴らしいチャンスでもある。

気づけば「プラダを着た悪魔」は公開から15年以上も過ぎているらしい(2006年公開)。今見直すと、イチから百まで主人公アンディに共感しながら見た当時とは違う感慨が湧いてくる。
よく知られている通りこの映画の原作者はUS VOGUEのカリスマ編集長アナ・ウィンターの元アシスタント。もちろん誇張されているだろうけどミランダとアンディのストーリーの元ネタは、作者のローレン・ワイズバーガーの実体験。世界一のファッション誌VOGUEと業界の女帝アナだ。

プロフェッショナルの世界というのはどこも外側からみると奇妙なものだ。界隈でしか通用しないジャーゴンの数々に謎の業界ルール、その道何十年のベテランたちが放つ威圧的なオーラと、プライドと羨望で彩られた絶対君主制さながらのピラミッド構造、
正解のない世界でベストを更新し続けなければならないプレッシャー……「私は何にだってなれる!」とモラトリアムの中で自由と全能感を謳歌してきたばかりの新人アンディにとってそこは頭のおかしい「不思議の国」だ。

ハートの女王の機嫌を恐れて白バラを赤く塗り直す、哀れで愚かな兵隊たち。業界の外側(どころか社会の外側)から来訪する新入社員の無知ゆえに無慮な指摘は、
ときに残酷にズケズケと真実を言い当ててしまうが、同時にアリスもまたハートの女王の真意を知らないのだ。なぜ、バラの色ごときに必死にならなければいけないのか。

物語の序盤の名シーン。
ランスルー(次号の撮影に使うコーディネートをミランダが確認する企画会議)に居合わせたアンディはワンピースに合わせるベルトに迷うミランダと編集者たちの様子に、思わず小さく吹き出してしまう。
その笑いはまるで風変わりなドタバタコメディでも観劇していたかのような……誰かの悲劇は客観的に見ると笑えるものだとチャップリンも言っていたけれど、とにかくポップコーンでも食べながら客席でもらす笑いのような、それは圧倒的外部から発される無防備な笑いだった(アン・ハサウェイの演技が見事だ)。

しかし残念ながらアンディがいたのは安全が保証された客席ではなかったので、それは葬式の最中の忍び笑いのごとくその場にいた全員の耳に印象深く届いてしまう。ここからの、自分の犯した決定的失敗にまだ気づいていないアンディをぺしゃんこに叩き潰す、恐ろしくもかっこいいミランダの演説といったら! 少し長くなるけれど引用しよう。


「なにかおかしい?」
「いえ、別になんでもありません……ただ私にはその(二本の)ベルトがまったく同じに見えるので、なんていうかその……こんなのはじめてだから(笑)」
「え?『こんなの』?……ああ、なるほどあなたには関係ないと思ってるのね。あなたはクローゼットからその、いかにも冴えないブルーのセーターを選んで世間にアピールしているんだものね。
自分は着るものなんて気にしない真面目な人間だって。(中略)
皮肉なものよね? あなたがファッションとは無関係だと思って選んだそのセーターが、そもそもはここにいるわたしたちが選んだものだなんて……『こんなの』の山からね」

子供は往々にして(そして大人も往々にして)働くのはお金を稼ぐためだと考えるが、ほんとうは働くとは価値を作り出すことだ。お金はその逆流のエネルギー(価値を受け取ってくれた顧客から返ってくるもの)であって目的ではない。
だけどその仕事や業界になんの情熱も持っていない部外者には、仕事はただただお金のために自分の時間を削る行為でしかない。

アンディには二本のベルトの違いが分からない。
それは彼女がまだ客席から仕事をしているから。家賃を払うためのお金と「本当にやりたい仕事につくための足がかり」というメリットのためだけに働いているから。
だけど仕事というのは本来心が入っていないと成立しない。価値とは人の心からしか生まれてこないものだから。

不思議の国に染まるつもりのないものは、いつまでも迷子のアリスだ。アリスは兵隊たちは哀れで愚かだと言い、女王はなんて残酷なんだと言う。
そんなことは言われなくても知っている。一本のベルトを巡って右往左往し、30万ドルかけた撮影があっさり却下され、ゴージャスな世界の裏側で何人もの天才たちが血と汗と涙を流す。哀れで愚かで残酷。

こんなことは、心から愛していることじゃなければ絶対に耐えられない。だからこそ、女王の残酷さはこの国のすべての住人の希望なのだ。
ベルト一本の微差にも魂を込める意味があると、彼女こそが誰より厳しく体現しているから、みんな自分の情熱を信じ続けられる。形のないものに意味を与え、正解のないものにジャッジを下す。それができるから、彼女は不思議の国の、絶対女王なのだ。

物語の途中でアンディがシャネルのコーディネートで大変身を遂げたとき、ミランダは「ふうん」という感じで彼女を眺めるのだが、それは「なかなかおしゃれじゃないの」という意味ではなく「そう、あなたもようやく舞台の上に立つ気になったのね」という意味だ。
つまりようやく仕事をする気になったのね、ということ。本当の仕事は価値観を共有し、その世界を自分事と認めてはじめてスタートする。

さて「プラダを着た悪魔」は徹頭徹尾アンディの視点なので、ミランダの視点をのぞいてみたい方には2009年公開のドキュメンタリー「ファッションが教えてくれること(原題:The September Issue)」をおすすめしたい。
このドキュメンタリーはまるで「プラダを着た悪魔」に対するアナ・ウィンターからのアンサーかのような映画で、2007年9月号のUS VOGUE制作過程に密着している。
映画以上にかっこいい、大人のプロの世界を見せてくれる作品だ。

現実にはキャパシティがあり、スーツケースに収まらないものは持っていけない。ならば「最高」と「最・最・最高」の間に厳しいジャッジをくださないわけにはいかない。
ファンタジーを形にしようという現場では、冷酷に最高を切り捨て、締め切りと予算に向き合うことが必須なのだ。逆に言えばキャパシティの限界があるからこそ、ジャッジの感性は磨かれ、本当に価値のあるものとそうでないもの(もちろんあなたの属する「不思議の国」にとっての)を見分けられるようにもなる。


ファッションの「何か」が人々を動揺させる、とアナ・ウィンターは語る。
おしゃれをすること、自分を素敵だと表現することは様々なレベルで自意識や欠点に向き合うことだ。それは自分を「最高」から「最・最・最高」へと引き上げるための意識的ジャッジを繰り返すことでもある。
どんなメイクをする? どんな色を選ぶ? どんなテーマのコーディネートをする? 何を食べる? どんなインテリアの部屋に住む? そうした意識の高さは目撃した人々をときにやる気にさせ、ときに不安にもさせる。

仕事には美学をもつ「べきだ」なんてことは言えないし、おしゃれをすることは義務ではない。しかし「仕事よりプライベート、外見より中身が大事」と言いたくなるとき、わたしたちは本質から目を逸している。
結局のところ仕事とは、どんな価値を世の中に生み出すかということへの加担に他ならないし、外見を磨くことは現在進行系の毎日の意識・習慣の反映なのだ。つまりそこには、はっきりとあなたの選択が現れる。

「プラダを着た悪魔」のオープニング・シークエンスではその「意識」の違いがとても鮮やかに描かれる。
アンディを含めた様々な女性たちのモーニングルーティーン。美しい生活と美しい自分を保つため、まるでステージに出るかのように身だしなみを整え、オシャレをし、食事に気を使う女性たちと、
無頓着なぼさぼさヘアのまま平然と出かけ、歩きながらベーグルを頬張るアンディ。
その「外見」は履歴書以上に人間性を語ることになるのだが、このときアンディはまだそれを知らない。

今月の名作

『プラダを着た悪魔』
ブルーレイ発売中/デジタル配信中
(C)2012 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
発売/ウォルト・ディズニー・ジャパン

¥2,381+tax

岡崎直子/元・大手出版社社員。社員編集者からフリーライター期間を通して雑誌・新聞・書籍等で主にファッション系記事を執筆。
同時に占い師として複数の雑誌で連載を経験。
現在はYouTube、note等での情報発信およびオンラインでの占星学クラス等を開催。
https://www.youtube.com/channel/UCkBYHQILkcdeel-0KD7jbAQ
https://note.com/naokookazaki

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