大人たちのファッション談義
vol.3 ファッション・クリエイティブ・ディレクター

大人こそ「一生、ミーハー」!
guest 軍地彩弓さん

2021.12.31

だれかのために時間を使うことが多い大人の女性たちに、ほんの少し自分だけのひと時を過ごしながら読んでほしい「大人たちのファッション談義」は、
話題の方々にそれぞれの“ファッション哲学”について語っていただくスペシャル連載です。
今月のゲストはファッション業界で幅広く活躍中の軍地彩弓さん。
大人の、大人による、大人のためのミーハーファッションについて語っていただきます。

written by Sayumi Gunji

「脱・無難。年齢を重ねても心弾ませる
ミーハーファッションのススメ」

先日、若い友人からふらりと誘われて、あるコンサートへ行きました。場所は渋谷。ユニクロの上にある小さなライブハウス。アーティスト名は「小林啓子」。実のところそれまでは全く知らなかったその人のステージ。少し遅れて席に着くと、その声にすぐに引き込まれました。彼女が歌うのはフォーク。70年代から歌い続ける「フォークの女王」です。

歌声だけでなく、私が惹かれたのはそのファッションでした。コムデギャルソンと分かる全身黒のジャケットにフレアスカート。足元にはアレキサンダー・マックィーンのチェルシーブーツ。シルバーヘアのおかっぱ頭。いかしています。後半はヨウジヤマモトの黒いフルレングスコートに中には純白のドレス、足元はケッズのスニーカー。デビュー55周年、74歳。アンコールのラストソングも素晴らしく、本当にお洒落とはこういう人なのだな、と思ったのです。

私自身年齢が50代後半に差し掛かり、ファッションを生業としていながら色々自分の装いについて思うようになりました。

昔似合っていた服が似合わない問題

40代くらいから過去に似合っていた服が似合わなくなりました。その代表がTシャツとジーンズ。これがまず似合わない。加齢で体型が変わり、顔つきが変わり、時々鏡の中の自分にどきっとします。一方精神状態はずっと35歳くらいで自己認識が止まっているのだと思います。だから「脳内で想定される自分の姿」と「鏡に映る自分」とのリアルなギャップにヒヤリとするのです。

変わっていく自分の姿に最初の頃は「いや、たまたまだから」とスルーしていたのが、いつからか「やっぱり似合わないんだ」という諦めに変わっていきます。

似合わないと思っていた服が
似合う、と言われるようになる

その一方で発見もあります。最近よくKEITA MARUYAMAの服を着ています。彼の服はシーズンごとにオリジナルのプリントが美しく、その柄の艶やかさが魅力です。トレンド追求型ではなく、日本の美を基調にした服たちは決して地味な服ではありません。

この冬のお気に入りは龍柄のコート。シャングリアと呼ばれる桃源郷をモチーフとしたゴブラン織のコートには、ヒョウ柄の付け襟がついています。これをインスタにアップしたところ、たくさんの「いいね」がつきました。また、これを着ていると「似合っているね」と男女ともに褒められるのです。多分20代の自分だったら怯んで着こなすことができなかったコート。こういう大胆な服を着こなせるようになったのも50代からの発見でした。

コンサバコンプレックス

私は“コンサバ”が苦手です。自分がこれまで編集してきた雑誌が「ViVi」「Glamourous」「VOGUE GIRL」というコンサバとは縁遠い雑誌だったからかもしれません。シンプルなベージュなニットに、すっきりとしたワントーンのパンツ、のようなお洒落コンサバが全く似合わないのです。これは自分の思い込みかもしれませんが、こういうシンプルな服だと自分が曝け出されてしまって、“盛れない”ように感じてしまうのです。

私にとってのファッションは「足りない自分を上げてくれるもの」です。若い頃はそれが「トレンド」でした。ファッション編集者という仕事をしている自分は最先端のデザイナーのアイテムを身につけていなくてはいけない、という焦燥感もあったのだと思うのです。雑誌は毎号新しいものを提案します。それは過去を「古い」と宣言するという作業でもありました。そういうわけで、毎シーズン服を買いまくってきました。

しかし、年齢を重ねると「はて、自分は“流行”や“ブランド”を着ていたのだろうか?」 と疑問に持つようになりました。このコロナ禍で大きな断捨離をしたこともその思いを強くしたように思います。

コンサバはシンプルで美しい、だけどコンプレックスだらけの私には到底手に入らない「美」です。美しい人がシンプルなハイネックのニットを着ている姿は本当に美しい。だけど、こんな私には到底似合わない、と。ここでいう「美しい人」はいわゆる造形的な美女だけを指す言葉ではありません。白洲正子さんや緒方貞子さんの姿とか、実績や教養のある人が着こなすシンプルなファッションの美しさは眩いほどです。そういう理由で、まだまだ中身が成長道半ばの私にとって、コンサバはとても難しいのです。

最近原宿を歩いていると、街を歩く人がとても無難な服を着ているな、と感じることがあります。原宿なのに全体に地味なのです。色は黒、茶、紺、ベージュ。柄物もあまり見かけません。これはコンサバというより、「無難」。その勢いが止まらないように思います。

無難大国日本、とも言える現象です。これは長らく人のファッションを見てきた私にとって衝撃的なことです。

目立つことがリアル社会でもSNS上でもリスクを伴うから、なのでしょうか? よく「年相応にしなさい」という言葉を聞きます。歳を取ったらわきまえて、地味にしなさい、と。

でもね、人の一生は自分だけのもの。地味でも一生、派手でも一生。同じ一生なら自分の心地よいファッションでいたい、というのが今の私の気持ちです。

先日亡くなった母が亡くなる数ヶ月前に「お買い物に行きたい」と言い、入院していた病院から地元の百貨店に行きました。その時彼女が買ったのはちょっと派手なハイネックの柄トップスでした。「花柄を着ていると病院で褒められるのよ」と。歳を取り、シワも白髪もある彼女にとって、足りないものを補い上げてくれる華やかな柄は、まさに自分らしさなのだと思いました。そして、新しい服を買うことが母にとって心を躍らせる大切なことだったのだと。

ミーハーこそが、服を楽しむ極意

自分らしさ、なんてこの年になってもまだ見つかりません。ただ、似合う服は分かってきました。それは流行でもなく、無難でもなく、着ていると褒められる服。

40歳を超えたら、そういう褒められ服を探していくことなのじゃないかなと思うのです。その先に自分らしさが見えてきます。ちょっと冒険な服が、うっかり似合うこともあります。無難な服ばかりでその新たな出会いを諦めてしまうと一気に老け込みます。

冒頭に書いた小林啓子さんが美しかったのは新しい服を着こなしちゃう意気込みと自信です。

服は新しい出会いです。「可愛い! 着たい! 欲しい!」こういうミーハーな心の弾みこそが、年齢を超えてファッションを楽しむコツなんじゃないかな、と最近思うのです。「一生、ミーハー」とは私が作っていた「GLAMOUROUS」という雑誌のスローガンです。奇しくも私の人生も「一生、ミーハー」を続けていきそうです。

新しいことにいつまでも目を輝かせること。これこそがミーハーでいられる極意なのです。


軍地彩弓(ぐんじ さゆみ)
ファッション・クリエイティブ・ディレクター/
株式会社gumi-gumi代表取締役

ファッション雑誌「ViVi」や「GLAMOROUS」を経て「VOGUE girl」を創刊、「Numéro TOKYO」のエディトリアル・ディレクターとしても活躍。社会現象となったギャル文化や109ブームなどの仕掛け人としても知られ、現在はファッション業界を舞台とした数々のドラマや映画の衣装監修やディレクションなども務める。
https://www.gumi-gumi.tokyo
https://www.instagram.com/sayumi7/
https://twitter.com/sgunji

大人たちのファッション談義

「『変わりたい』といいつつ、 変えたくない大人たちへ」 written by Kaoru Watanabe イメチェンを恐れる女性たち 女性は、「変わる」というキーワードが好きです。某女性ビジネス書のタイトルは、「変わる […]

2020.12.28

だれかのために時間を使うことが多い大人の女性たちに、ほんの少し自分だけの時間をつくって読んでほしい「大人たちのファッション談義」は、話題の方々にそれぞれの“ファッション感”について語っていただくスペシャル連載。スタイルのあるあの人は、おしゃれをどう考え、表現しているのでしょう? 初回のゲストは齋藤薫さんです。

2020.12.01
Liv,

本当にいいもの・上質なものだけを知りたい大人へ。
リアルクローズの最高峰を凝縮した
ファッションウェブマガジン『LIV,』

多くの人が自由に発信し、たくさんの情報が溢れる中で、
ここさえ読めば“おしゃれのときめきとプロが発信する信頼できる情報”がすべて手に入る『LIV, 』。
ファッションテーマやビューティ企画はもちろん、広告からタイアップ、
イベントニュースに至るまで、一切の妥協のない情報だけを厳選してお届けします!

Smart Phone Only
スマートフォンからアクセスしてください

    無料メルマガ登録

    こちらの無料メルマガでは、新着記事、イベント、
    オンラインレッスン、プレゼント企画のお知らせをいたします。
    ぜひご登録ください!