齋藤 薫さん
だれかのために時間を使うことが多い大人の女性たちに、ほんの少し自分だけの時間をつくって読んでほしい「大人たちのファッション談義」は、
話題の方々にそれぞれの“ファッション感”について語っていただくスペシャル連載。
スタイルのあるあの人は、おしゃれをどう考え、表現しているのでしょう? 初回のゲストは齋藤薫さんです。
今こそオシャレをやり直す!
「オシャレしているつもりでも、
オシャレに見えない。
そういう人って一体何が足りないのか?」
逆境が、人を成功に導く?
人生がわかるのは、逆境のとき……そう言ったのはココ・シャネルだった。まさしくシャネルにしか作れないであろう上品かつキュートな“制服のようなモノトーン・スタイル”は、
ココシャネルが10代の頃、厳格な修道院で過ごさなければならなかった経験からインスパイアされたものと言われる。
まさにある種の逆境が、成功を導いたとも言えるのだ。
この一年近く、オシャレを休んでいた人は少なくないのだろう。マスクを外せなくなって、これまで積み上げてきたワードローブは見事に崩れた。何を着てもオシャレに見えないという時間が長かった。
それでも人間ってたくましい。早くも“オシャレなマスク”専門店が生まれるほどに、マスクを瞬く間にファッションの一部にしてしまったのだから。街でも、ハッとして振り返るほどオシャレな人は、マスクのオシャレ上手だったりするほどに。
いずれにせよ、そろそろ本格的なオシャレ再開の時。自粛期間に断捨離もしたし、身も心もリセットしたし、自分をやり直そうとしている人も少なくないのだろう。この時期をひとつの逆境と見るならば、それこそここで一皮むけたように輝きを取り戻したいからだ。
そこで今こそ問い直したいのは、あなたは本当にオシャレをしているのだろうかと言うこと。オシャレしているつもりでも、オシャレに見えない人がいるとしたら、あまりに残念なこと。そこに洗練が生まれなければ自己満足に過ぎなくなるからである。
オシャレなマスクは、オシャレじゃない?
例えば、今まさに「オシャレなマスク」と呼ばれるものには、華やかな柄があったりレースだったりするものがある。それを身に付けることが果たしてオシャレなのだろうか。
もちろんその柄が服と連動しているなら話は別だが、服とのコーディネートが何もなされていなかったら、それはオシャレと言わない。むしろ洗練を壊す行為。マスク自体に罪は無いが、それが今いちばん陥りやすいオシャレの誤解……。
きれいな白のシャツに、流行のブラウンのスカート……これも、響きは良い。でも実のところ白のシャツは難しく、流行のボトムを合わせても野暮ったく見えるか地味に見えるか、何かひと技を加えないとオシャレに見えない。
例えば、ダークブラウンのルーズなロングブーツに同色の太ーいベルトを加えるような上乗せで、洗練を主張しないと絶対にオシャレに見えないのだ。さらにはスカートと同系色のベージュのニットと同色のニット帽を加えたり。そこまでしないと誰もオシャレと見てくれない。
単品や小物を加えて加えて洗練の証拠を積み上げて、全体をひとつにまとめていく、その作業がないとダメなのだ。
料理も、なんだか味がバラバラでまとまらない状態に塩をひとつまみ入れただけで急に味がまとまって、俄然美味しくなったりするもの。それが洗練。
オシャレも同じなのだ。何かを加えてまとめる……。もちろんバラバラに加えるのでは逆効果。加えるほどにまとまっていかなければ意味がない。
オシャレに見えない人は、決定的にその何かが足りないのだ。スカスカなのだ。味がしない料理のように。
秋冬はくどい位で良いから、洗練を上乗せする。ひとつのテーマに向けて積み重ねるほどに、逆に全身がどんどんスッキリ一体化してみる見えるはずだから。
だから、いっそこの冬は、
全身“白一色”
それが難しい、と言うならいっそこの冬は“全身白”。白のニットワンピに白のニット帽、白のダウンに白のスニーカー。ただし真っ白から生成りまで、微妙な色の違いを意識して組み合わせて。
ともかくそのぐらいやっていい。合わせすぎなくらいでいい。「抜け感」を言い訳にコーディネートが隙だらけでは、永遠にオシャレに見えないのだ。
メイクの場合も、人に見えなければメイクにならない。アイラインもマスカラも人から見えなければメイク効果にならない。
そういう意味で時間をかけてもかけてもキレイに見えない人がいたら残念なこと。もうそういう無駄はやめたいのだ。
空白の時間を経て、自分をやり直したいと言うのなら、そうした定義から見直したい。想像もしなかった日々がやってきたことで、多くの人はこれを機に自分をきちんと整えて、未来に備えたいと思ったはず。
世の中でちゃんと輝く自分を作り直すことも、未来に備えること。そしてまた一日一日を大切に生き直すこと。自分の未来に希望を持つためにこそ、自分自身の輝きを取り戻すべき時なのだ。それも、おざなりではない本物の輝きを纏うために、物事の本質を見直すべき時なのだ。
だからまずは、洋服を着ることから、やり直してみたい。毎日毎日、ハッとされる存在であるために。
齋藤 薫/数々の女性誌に連載を持つ美容ジャーナリストでありエッセイスト。女性のおしゃれ意識に革命を起こすような名言は数多く、幅広い年代にファンを持つ。「“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき」(朝日新聞出版)、「キレイはむしろ増えていく。 大人の女よ! もっと攻めなさい」(集英社インターナショナル)ほか多数の著書は、大人の女の美容液バイブルとして大人気。
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